2012年11月22日

ピンクのポンポン★38  3/4

※今回はじっくり読んで頂きたいために、わざと区切って更新します。ラストはハッピーエンドですが、これはまだ完治前の段階のお話です。同じ病気を発病しても、もっと早く快復する人もいれば、もっともっと快復に時間がかかる人もいれば、私みたく一生付き合う覚悟を決めてからマシになる人間もいてと、バラバラかと。勿論、余計に悪くなってしまう人達もいらっしゃると思うので、“思い込み”は持たずに、フィクションと認識頂いた上でお読み下さい。
モデルは存在しません、念のため

 初日と二日目、私は母の右手を両手で握り、TVの前に座るだけで終わった。ドラマの放送時間が過ぎてからも心が緊張したままで、身体の震えが止まらず、立ち上がることもできないでいた。三日目にやっと、放送時間が過ぎると心の緊張が早めに緩むようになったけれど、身体の方は変わらなかった。その夜、弟がソフトのレンタルショップでドラマのDVDを借りてきてくれた。弟は百円ショップで買った手提げの中にレンタルショップの袋を入れた状態で私に手渡した後に、こう言ってくれた。
 「無理して見なくて良いから。でも、一週間したら返すから、途中まで見た時だけ教えてね。また、レンタルしてくるから」
 私はお礼の言葉よりも先に涙がこぼれた。弟の優しさが心にしみたからだった。自分の車を買ったり、旅行に出たり、お洒落も楽しみたい年頃の筈なのに、私を優先する生活に文句も言わず、更に優しく接してくれる弟の存在が本当にありがたく思った。今迄も家族に対して申し訳ないと思うことはあったけれど、弟に普通の生活を取り戻して貰うためにも、早く普通の生活に戻りたいと、初めて強く思ったのだった。
 今まで、そんなことまで考える余裕なんて無かったので。
 翌日の四日目、私は事件後、初めてテレビのスイッチを入れた。三分程で消してしまったけれど、お昼の放送では、五分程度、見ることができた。朝も昼も母は涙し、弟と父にメールを送った。
 父も弟も笑顔で帰宅し、相変わらず、食事中の会話は少ないけれど、その日の夕飯の食卓が明るく感じた。よくよく考えると、事件が起こる前までは、家族が揃っていない時ても、もっと賑やかな食卓だったことを思い出すと、悲しい気持ちが心に浮かび、私は家族に謝った。
 「私が事件に巻き込まれたばかりに、こめんなさい……」
 私は箸を置いて、泣き出してしまった。暫くしてから、弟が言った。
 「あのさ、自分から巻き込まれたくてそうなった訳じゃないこと、ちゃんと分かっているから。俺も以前はそのことでお姉ちゃんを恨んでいた時期もあった。正直、面接に行くと家族の名前と年齢を書かせる会社があって、そういう所は一次面接で全て落とされたからね。でも、気付かせて貰った、前へ進まないことにはどうしようもないって。それに、お姉ちゃんが自分で気づいてないだけで、お姉ちゃんはちゃんと努力してる。でないと、『出かけてみたい』という気持ちは持てなかったと思うよ」
 言い終わると、弟は何でも無かったように食事を続けた。父や母も暫くしてから食事を再開したけれど、途中で私の様子を見かねた母が私を部屋に連れて行ってくれて、ベッドに横にしてくれた。
 暫く眠ってから居間へ降りてゆくと、母は編み物をして、父と弟が将棋をさしていた。当然、テレビもラジオもついていない、我が家では当たり前になった光景だった。両親と弟の三人が互いに顔を見合い、何かを譲り合っていたので、私が先に言った。
 「さっきはごめんなさい」
 「だから謝らなくて良いってば」
 弟が言った。まだ三人が顔を見合っていたので、私は母の隣に座ってから訊いた。
 「どうしたの?」
 父がやっと口を開いた。
 「ケーキ、買ってきた。食べられるかな?」
 私は頷いた。
 「じゃあ、俺が珈琲を淹れる」
 そう言うと、弟が立ち上がった。 

mokkon at 22:00│Comments(0) 妄想小説 

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔